執筆講演

執筆講演 - 建築コラム

新宿のビル火災・防火管理者逮捕

約ひと月前のことだが、死者2名負傷者5名を出した東京・新宿の「歌舞伎町三洋ビル」火災で失火元のテナントの防火管理者が逮捕された。平成13年10月29日の火災の件だ。その2ヶ月前の9月1日、死者44名負傷者3名を出した同じ歌舞伎町「明星ビル」の大惨事に続いて起きた惨事だ。特別査察の最中に起きた火災であり、私もちょうど新宿区内の特殊建築物のビル調査中だったため印象に残っていた。しかしこのようなビル火災でテナント側の過失責任が問われるのはきわめて異例だ。煙感知器が取り外され、入り口付近に置かれたロッカーにより防火ドアは閉まらず、ほかの消防設備および防火・避難対策なども全く管理せず防火管理上、重大な過失を犯し悪質と判断したのだろう。大災害となった明星ビルについても同じような厳しい責任が問われるであろう。

日本では火災・災害が起きるとその都度、法律が改正強化されるが、事前に予防策をとる欧米と異なり後手になっているとしか思えない。消防法は現行法規に適合するのが原則だが緩和措置などがありなかなか是正されていないのが現状だ。建築基準法は建築確認申請受理時点で適用され一度建ててしまえば増改築などをしない限り、その後強化された法律の規制は受けない。用途変更などをしても手続きをせず、現行法を遵守していない建物がいかに多いことか! 昭和55年の建築基準法の改正時における駆け込み申請は建築関係者が記憶しているところだ。

アメリカではどうか? 建築工事の途中であっても、新法規に従うというのが原則だ。しかも大多数が守っている。9.11テロで崩壊したニューヨークのワールドトレードセンター(世界貿易センター)ビルは有名で、アスベスト使用が禁止されると、建物の三分の一つまり40階近くまで工事中だった耐火被覆材のアスベストを全部取り除いて新材料に遣り替えたのだ。今回、崩落した後にもアスベストは検出されず、さらなる被害を出さずにすんだ。もし日本の法律のように適用されないとしてそのまま進められていたら今回・・・付近の住民に対する被害はさらに拡大し、撤去作業も全く進まない重大なことになっていた。法律の徹底さには驚かされる。もちろんモラルの問題もあろうが!

環境問題が問われ、大量消費の時代は終わった。スクラップアンドビルドの時代からストック重視の時代になった現在、既存の建物をいかに大切に使用していくか、新築時の美しい夢のある期待をかけた頃を思い起こそうではないか!建物も維持保全を行うことによって安全の確保も継続される。点検・改修によって機能的で快適な建物として保持されるではないか。若く美しい姿をより長く継続できるではないか(笑)。建物の劣化を防ぎ、社会にも積極的に貢献し、ひいては資産価値の増大にもなる。私は新築のみならず、既存建築物の有効活用がこれからの建築家に求められる職能の大きな役割だと思っている。

最近社会問題化しているリフォームのトラブル防止のためにも活動している。特に2003年問題をむかえる都市部にあっては、安全確保の予防の点からも現行法に適合するのはもちろん、建物の有効活用の面からも、既存ビルの見直しが問われる。それぞれのビルが美しさを保ち再生され連続されていけば後生へ誇れる「美しいまち」が残せるのではないか。建築家はもちろんのこと、建物の所有者、管理者の皆様には、ぜひとも一考を願いたい。

関連ページ|建築コラム 新宿ビル火災大惨事に思う