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日経:防災の日−特集企画2002

2002/09/01
日経産業新聞 防災の日特集記事
建築コンサルタント・建築家 一級建築士 市村克明  
災害に強い街づくり、急がれる免震構造の建物、耐震補強へ新基準を活用

六千三百人を超す犠牲者と三十九万棟の被害家屋を出した阪神・淡路大震災から七年半。防災に対する関心も薄れつつある印象もあるが、我が国土全体の地震噴火活動は頻繁に起きており、十年に一度の割合で大地震が起きているのも事実だ。総合的防災対策の重要性にはなんら変わりはない。

大地震発生のたびに、地震対策として建築物の耐震構造設計の一層の強化が打ち出され、新基準が出そろった。既存建物に関する耐震補強の診断、施工も始まっているが、問題は新基準を満たしていない既存建物の耐震補強、施工をどう進めるかである。

大地震が起きるたびに改正、強化される建築基準法における耐震設計規定だが、中でも近年のポイントは、宮城県沖地震後の千九百八十一年施行(制定は八十年)の主にビルの構造強化を規定した新耐震基準と、阪神・淡路大震災後の二千年施行(制定は九十八年、順次施行)主に木造住宅の構造強化の大改正で、概ね構造新基準が一通り出そろったようにみえる。

例えば従来、建築基準法の木造軸組については「釣り合い良く配置すること」とだけ明記され、具体的な壁の配置規定については示されていなかったが、新基準によると「偏心率三十パーセント以内であること」「けた行及び張り間方向別で、それぞれ両端から四分の一ずつの存在壁量が二倍以内であること」というように「釣り合いよく」の具体的内容が明確に記されている。

新築の建築物については現在の建築基準法を遵守して(守るべき最低基準ではあるが)設計し、そのとおり施工されていれば今までの規模の大地震にも耐えうるであろう。阪神・淡路大震災でも、建築基準法を守って建てられた建物は倒壊していないことから、今後この法律は、耐震上有効なものとなる。

現在の大きな課題はむしろ、新基準を満たしていない大多数の既存建物の耐震補強、施工をいかに進めるかということだ。

たとえば学校建築をみてみよう。学校は災害発生時には必ずといってよいほど避難場所に指定されており、利用されている重要な施設だ。

ところが非木造の公立の小中学校の数は概ね三万四千校、面積で一億六千万平方メートル(東京ドーム約三千四百個分)ある。そのうち千九百八十一年以前に建てられた施設は全体の六十五パーセントを占めており、文部科学省によればそのうちの六十六パーセントが耐震性に問題があると推計している。

補強及び改築費用に年間一千億円の予算を充てているが到底足りない。学校建築に限らず既存の公共施設も状況は同じで、さらなる耐震補強が必要とされている。

一方、二千二百万棟以上あるといわれる木造住宅の中でも特に築数十年を経た木造住宅には耐震診断を行い、その結果によっては耐震補強を進めてゆく取り組みが急務とされる。

各行政庁をはじめ、団体、企業等幅広く耐震診断、あるいは補強工事等を行っている。新基準施行後のこの分野の動きは活発だ。日本木造住宅耐震事業者協同組合の実施したアンケート調査によると、多くの人が百万円未満であればすぐにでも補強工事を実施したい意向がある旨の回答をしている。完璧な耐震補強は不可能としても予算に応じた施工はできる。

従来の建物の設計基準は、倒壊しなければ安全であり、倒壊前に戸外へ避難出きる、との方針で設計された。しかし建物の揺れにより、家具等の転倒によっても多くの人命が失われ、安全性に対する一層の充実が必要となった。

阪神・淡路大震災において、神戸市に建てられた免震構造の建物が無損傷であった。この教訓から、震災後、日本各地において、大型のマンションをはじめとして中小のマンション、さらに多くの用途の建築物に免震構造が何らかの形で導入される傾向が強まってきた。今後はさらに一般化しなおかつ木造住宅の免震化にも注目が集まるであろう。

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